第05回 童話とショートショートの違い
童話とショートショートの違い
『ショートショートの広場』(講談社文庫)には全国から応募された入選作が収められている極上のショートワールドです。
ラストの一行で、どんでん返しや意表を突いて読者をうならせる一発芸のようなもの。SF作家の星新一さんの影響を受けて私もかつて、その魅力に取りつかれてしまった一人でした。
ジャンルもさまざまで、SF、スリラー、不条理、笑い、皮肉、ほのぼの、こんな表現もあったのかという度肝を抜かれた作品もあります。『ショートショートの広場6』に収められた作品「犬の散歩」は毎朝、朝食前に犬のゴンちゃんを散歩につれていく僕は時々みる白色の美少女に会えるのが楽しみです。公園の外周に沿って右回りの道をゴンちゃんのペースに合わせて歩きます。
散歩を終えると、お母さんはリードを受け取って僕の頭をなでながら「権平おじいさんを散歩につれていってくれておりこうね、牛乳をたっぷりかけたドッグフードをあげるわね」すると、僕はうらしそうにシッポを振った……というのがオチです。
ラストを読むまでは、誰もが主人公を人間だと思い込んでいたはずです。私もやられたと思いました。
公募ガイド童話集『群星』に収められた優秀賞「おいらとアイツ」は公園に住むチビ猫であるおいらには家族がいません。
段ボールに入れられたまま捨てられていました。が、一匹だけ友達がいて、おいらが歩くとアイツも歩きます。でも、いくらニャーと話しかけても、返事もろくにしてくれません。雨の日は、アイツは来なくて、おいらはたいくつな日を過ごすだけでした。
無口で真っ黒で、なにを考えているのかわからないアイツだけど月明かりの晩、アイツが帰ってきます。
ラストちかく、アイツの正体がチビ猫の影だとわかる切なくて、ぼのぼのした童話です。ショートショートは大人に向けたエンターテイメントですが、童話は子供だけではなく大人も読者になりえる利点があります。
「犬の散歩」は白色の美少女に会うのが楽しみ……とあるだけで読者はまんまとひっかかってしまうわけです。それがショートショートの醍醐味であって、良い意味で読者を騙すテクニックです。
童話においては「おいらとアイツ」のようにオチがなくとも、さりげなく気づかせるのがベストかもしれません。
チビ猫の影は自分の分身でもあり、もうひとつの自分の姿、あるいは自己陶酔的な願望とも解釈できます。
尚、私の作品「ある会話」は『ショートショートの花束1』阿刀田高編に掲載されてあります。
浜尾
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