第06回 ファンタジーへの入口

ファンタジーへの入口


原稿用紙五枚の童話には、その枚数に合ったシンプルな物語を想定しなければなりません。登場人物は少なく設定しないと失敗する確率が高くなります。

動物を擬人化する場合も、ムーミンとノンノン、新しいキャラクターの三つぐらいに絞った方が無難だといえます。

よほど面白いストーリーなら別ですが、あまり多すぎると、読者が混乱してしまいます。十枚でも小道具をうまく使えば、三人で物語は成立します。たくさんのエピソードを詰め込みすぎないことも重要です。

メルヘンやファンタジーを書くためには想像力を持たなければなりません。

遠くのものを見るよりも、身近にあるものを観察したり、よく見詰めることで空想力を鍛えるトレーニングになるはずです。

トレーニングの基本となるものに「もしも」というキーワードがあります。「もしも人間に翼があったら」「もしも生物の命が二つあったら……」と、幾つものアイデアをストックしておくことも大切です。

人があまり思いつきそうにもない「もしも」があれば、それがオリジナルのモチーフにつながるからです。

「もしも、子供の頃に遊んだ友達が子供のまま現れたら」は寺山修司さんの「かくれんぼの塔」という物語を読んだことがきっかけで思いついたものでした。

今回、四十年の節目として、手づくり絵本の処女作を童話としてリメイクしてみました。主人公は例によって高田くんです。

しかし、そんな子供が現れるのは、ファンタジーといえども唐突すぎて無理があります。そこで――高田くんをタイム・スリップさせることにしました。

会社員生活で目まぐるしい日々に追われていた彼は五年ぶりで故郷に向かいます。

家では母さんが帰りを待っている設定です。高田くんは、四時間かけて鈍行で帰りました。のんびりと、自分を見つめる一時が欲しかったからです。それが……現代から過去へとタイム・スリップする「入り口」になりました。スピードを象徴する新幹線と真逆なものが各駅停車だからです。

故郷に帰ってみると、町並みが三十年前の風景になっていて、八歳ぐらいの男の子(ヨっちゃん)が高田くんを見ています。

子供のころ、かくれんぼをした時、ヨっちゃんを見つけないで家に帰ってしまったことを思い出します。ところが、ヨっちゃんが何故、今ここで姿を現したのか? 二人の関係性がどうしても五枚では書ききれずに十三枚になりました。

登場人物は高田君とヨっちゃん。高田くんの母さんの三人です。小道具は一輪のコブシの花。タイトルは「もういちどだけかくれんぼ」で未発表です。

浜尾


童話作家|浜尾まさひろ

作成者|随筆春秋事務局 正倉一文

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