第03回 名作童話について
名作童話について
一九十八年、大正時代、鈴木三重吉が創刊した児童文芸誌「赤い鳥」には数々の名作が連載されました。
芥川龍之介の「蜘蛛の糸」新見南吉の「ごん狐」有島武郎の「一房の葡萄」など今でも上質な児童小説(童話)として知られています。
一九二八年「少年倶楽部」に発表された佐藤紅緑の「ああ玉杯に花うけて」は一世を風靡するほど多くの子供たちに読まれました。
町一番の秀才であるチビ公は、家が貧しくで進学できませんでしたが、叔父の豆腐屋を手伝いながら努力が実を結び、第一高等学校に入学するというサクセスストーリーです。そして、紅緑の娘さんが佐藤愛子先生でいらっしゃいます。
戦後にも出版されていて、本を手にすることも難しい時代に童話作家の立原えりか先生などが少女時代に愛読されていたものでもありました。
一九七〇年代は「赤い鳥」のような文芸誌がサンリオから発売されました。やなせたかしさん編集による「詩とメルヘン」です。
私事ですが、高校時代にこの文芸誌に掲載されていた安房直子さんのメルヘン「秋の風鈴」を読んだことが童話を書くきっかけになりました。
一人称で始まるこの物語にグイグイ引き寄せられてしまったことを覚えています。
ある日、主人公の「僕」に一枚のハガキが届きます。
「おたくの風鈴がうるさくて眠れません」
と、差出人のないその抗議文に怒りを覚えます。びんぼうな絵描きの「僕」は思い出のあるガラスの風鈴の音色に癒されながら良い絵を描くことができたのだと。
いったい誰がこんなハガキを出したのか……?
隣りの住人? アパートの大家?
「僕」があれこれ推察してもわかりません。
しかし、ラスト近くに思いがけない展開が待っていました。
「えぇっ……?」
このメルヘンを読み終えた時、私は空想することの素晴らしさと共に、創作の楽しさを教えられました。
私にとって「秋の風鈴」は名作になったのです。安房直子さんは天才でした。同じようなファンタジーに挑戦してみたものの、上手く書けず、今だに四苦八苦しています。
それでも、最近になって初心にかえり、
「秋の風鈴」のオマージュを意識した新作を書き上げることができました。
公募ガイド童話作品集に収めたものです。
タイトルは「ここに捨ててはダメ!」公募ガイド二月号に優秀賞として名前が載りましたが、何より嬉しかったのは天国の安房さんへの報告でした。
浜尾
0コメント