第26回 幼年童話を書いてみる 3

杉浦非水 作(「三越」PR雑誌表紙より|国立国会図書館提供)


幼年童話を書いてみる 3


―きいろいうきぶくろ(改題)―


「たいへんだ――」

あたりにはだれもいません。少し、はなれた防波堤でつりをしているのは、女の子のひいおじいさんです。耳がとおくて、つりにむちゅうでした。海では、強い風がふきつけて大きな波がうちよせてきました。

うきぶくろは高波にのって、いきおいよくジャンプしました。女の子の真上におちて

「はやく、ぼくにつかまるんだ!」

わっかに女の子がはいりました。

よかった、ほんとうによかった……。

うきぶくろはほっとしました。

女の子は、声をはりあげて泣いています。

泣きつかれて、うとうとしました。

うきぶくろは、女の子をかかえたまま

ゆらゆら ゆらゆら……。

さんばしの影も ゆれています。

そのとき、うきぶくろは思い出しました。

ずっとまえ、いっしょに遊んでいた女の子のことを……。

「リンちゃんだ!」

うきぶくろは、夏にはいつもリンちゃんのそばにいました。リンちゃんが、家族とボートにのっていたとき、風がふいて、うきぶくろは海に浮かんでしまったのです。

あのときのリンちゃんの泣き声が、だんだん小さくなって聞こえなくなりました。(この子はリンちゃんだ。助けなくちゃ)

そう思ったとき、しおがみちて、うきぶくろと女の子は海岸ちかくまで流れていました。そのころ、女の子がいないことに気がついた、ひいおじいさんが、あわててさけんでいました。

「かえで――、どこだい?」

ひいおじいさんはやがて、海岸ちかくで、しぼんだ、うきぶくろをつかんで、すやすやねむる女の子を見つけました。

空には、一羽のカモメがとんでいました。

おわり


※タイトルを「きいろいうきぶくろ」にしたことで子どもに親しみがもてるものになりました。3~5歳向きの絵本のテキスト(絵本用の文章)であれば、平がなだけの「分かち書き」にしても、もっと簡略な文章にしなければなりません。


ひろいうみのまんなかに、きいろいうきぶくろが うかんでいました。カモメがとんできて、うきぶくろに のっかりました。

「どこから きたんだい? ……ずっと、ひとりかい?」「たいくつだろ?」「うん。でもね、クジラのせなかに、のって しおをふかれたよ。それから、おおきい ふねの プロペラに まきこまれたときは こわかった――」「ふーん」カモメは、どこかに、とんでいってしまいました。

浜尾


童話作家|浜尾まさひろ

作成者|随筆春秋事務局 正倉一文

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