第09回 三題噺を書く(実践2)


三題噺を書く(実践2)


「竜」「女の子」「赤いリボン」このキーワードを入れて、物語を創作して下さい。千二百文字以内(原稿用紙三枚)です。


「夢のなかのりゅう」(完成)

とおい南の島に、女の子がひとりで住んでいました。女の子は、まいばん夢をみました。夢のなかには、いつも翼のあるりゅうがあらわれるのです。「――あなたはどこに住んでいるの?」「――きみがいつもながめている雲の上にいるんだよ。淋しくなったら、いつでもぼくを呼んでおくれ……」

ある日のこと。女の子は熱をだして寝こんでしまいました。すると、雲の中から、りゅうがあらわれて、女の子のそばまでおりてきました。「だいじょうぶかい?」「あら……」女の子はびっくりして、りゅうをみました。

「きみが心配でとんできたのさ。これは雲の上のブドウだよ」といって、紫色のブドウを女の子のそばにおきました。

「ありがとう」女の子はお礼に赤いリボンをりゅうの首にむすびました。けれども女の子の病気は治らないのです。「わたし、もうすぐ死ぬのかしら……」女の子が苦しそうにいうと、りゅうは女の子をじぶんの背中にのせました。「しっかり、つかまっているんだ!」りゅうは翼をひろげて舞いあがりました。

海の上をどこまでもとんでいきました。やがて、東の国にたどりつきました。「たいへんだ―、りゅうが女の子をさらったぞー」と、人々はわめきはじめました。王さまの命令で兵隊がやってくると、ドーンと銃声が鳴りひびきました。弾は、りゅうのわき腹に命中したのです。りゅうは、力のかぎり町をぬけて山奥へ消えていきました。ひとりの若い木こりが、木の下に横たわるりゅうに近寄りました。「おねがいだ……ぼくが死ぬまえに、からだの中の肝を取り出してくれ、肝の中にあるヒスイを女の子にのませれば、その子は助かるはずだから……」と、りゅうの目から大粒の涙がこぼれおちるのをみると、木こりはりゅうの腹をナイフで切り裂きました。しゅんかん、紫色の血がどっとふきだしました。木こりが、肝の中から小さな玉を取り出すと、それは青緑色に輝いているヒスイ石でした。木こりが口にふくませて、眠っている女の子に口うつしでのませると、ふしぎに女の子の熱は下がりました。目を覚ました女の子は。そばにいた木こりに「あなたが治してくれたの?」とききました。「いいや、きみを助けたのはあの、りゅうさ」

女の子がふりむくと、りゅうの姿はどこにもありません。赤いリボンのそばには、たくさんの竜胆の花が咲いていたのです。それからは夢のなかにも、二度とりゅうはあらわれませんでした。

浜尾


童話作家|浜尾まさひろ

作成者|随筆春秋事務局 正倉一文

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