第34回 怪談話とオノマトペ

イラストACより


怪談話とオノマトペ


むかし話をしてくれたおばあさんは、時には怖い話もしてくれていたはずです。

おばあさんは、子どもがどこで恐がってドキドキするのかも熟知していたかもしれません。そして、今では怪談師と呼ばれる人がいます。実際にあった信じがたい話を聞き集めたり、取材して編集し、舞台や映像などで発表する人のことです。

テレビで見るおどろおどろしい笛の効果音と共に現れる幽霊の映像に、私はそれほど恐怖を感じません。それより、日常生活のなかで語られる不可解な体験談に思わずゾッとしてしまうことがあります。

前者がいかにも「恐がって下さい」といわんばかりの大げさな演出であるのに対し、後者のそれは「不意を突く」からです。聞き手にとって「不意打ち」は大きなインパクトを与えます。小説本の帯に書かれた「大どんでん返し」や映画の予告編といった過剰な宣伝文句に私が違和感を覚えるのもそのためです。

さて、動画にも配信されている怪談師による語りが恐怖のどん底に突き落としてくれるのもそれなりのテクニックがあるからです。たとえば、怪奇オタクのA氏が「幽霊が出るいわく付きの屋敷を探検した話」という前置きをした後に、屋敷に深夜1人で居続けたエピソードを話しはじめます。

怪談師は語りのタイミングを見計らって、ここぞとんばかりに畳みかけるのです。

庭から「ズズズ、ズズズ」と、何かが部屋に向かって這い上がる音と気配がする。ややもすると、小さな生き物が階段を「ズチャ、ズチャ、ズチャ、ズチャ」と、上がってくる音がする。―――2階にたどり着くと、こつ然とその気配が消える。床を這っている感じや、階段を上がる音を考えると、それは犬や豚ほどの大きさではないのか? 考えてもわからない。その奇妙な音は朝まで何度もくり返される。結局、生き物の正体は人間の生首だった……というものでした。まるで、江戸川乱歩の世界です。

生首の正体を最後まで隠し続けることで聞き手の興味を引きつけ、飽きさせることがありません。「ズズズ」や「ズチャ、ズチャ」といった擬態語をひんぱんに口にすることで想像が膨らみ、あたかも自分がその場にいるような錯覚を覚えます。恐怖心が倍増します。

映像と違って耳から伝わるオノマトペ(擬音、擬声、擬態語を含む)によるイマジネーションは、人間の心理作用に大きな影響をもたらします。特に日本語の話し言葉は英語と比べてオノマトペがより多く使われているようです。このツボをよく心得たおばあさんの怪談話も、子どもに恐怖を与え、同時にそれがある種の快感をもたらします。「もっと聞かせて」となるのです。童話で怪談話を創作する場合には、このオノマトペの功用を覚えておいて損はありません。

浜尾


イラストACより


童話作家|浜尾まさひろ

作成者|随筆春秋事務局 正倉一文

0コメント

  • 1000 / 1000