第30回 社会性のあるテーマを考える
イラストは、Microsoft Copilot(人工知能)の作品
社会性のあるテーマを考える
どんなテーマを選ぶのかは、作者の自由です。設定した人物が子どもであれ、大人であれ、人生や世の中を生き生きと描きだしていくフィクション、それも文学です。(エッセイというノンフィクションの文学もあります)
発端にはじまって、展開。さらに最高潮に達して結末をむかえます。 結びがハッピーエンドなら読者に安心感を与えますが、こだわらなくても根底にメッセージ性があれば良いとも考えます。
作品を支える要素には、
- 背景(時代)
- 人物(主人公)
- 事件(出来事)
があります。作者が何を書きたいのか、訴えたいことは何か、明確なビジョン(構想)を決めると書きやすくなります。戦争問題、環境汚染問題といった題材の選び方で作品の完成度が決定することもあるからです。
子どもを取り巻く環境を考えると、テーマ性が浮かんでくることがあります。たとえば「虐待」という許しがたい行為。親の身勝手で子の命が軽視されることがあってはなりません。「イジメ」も同じで、同級生からのイジメで自殺に追い込まれるまでの児童の心理を分析してみることも大切です。どうすれば自殺を回避できたかを考えるだけでも、主人公を救えるストーリーが出来ることもあるのです。
社会性のある作品といえば、
- 石森延男『コタンの口笛』(偕成社、1957年|児童文学)
- 島崎藤村『破壊』(緑陰叢書、1906年|自費出版、小説)
- 住井すゑ『橋のない川』(新潮社、1961年|小説)
などが有名です。
『コタンの口笛』はアイヌ集落に住む中学生の姉弟が日本人の執拗な差別や偏見と闘いながら成長していく物語です。昭和のラジオドラマや映画にもなりました。
『破壊』『橋のない川』は同和問題でもある被差別部落を扱っています。 封建的身分制度のもとで、最下層に位置づけらた人々を描いていて、どちらも映画化されています。
3作とも長編で、社会性のある作品としては代表作といえるでしょう。差別部落に関しては、そこに住んでいるだけで差別される重大な社会問題があります。現代でも偏見が残り、結婚を妨げられたり就職で不平等に扱われたりと時代錯誤が感じられます。
これとあいまって、子どもの貧困問題があります。毎日の衣食住に事欠く状態を「絶対的貧困」、国や地域の水準と比較して大多数よりも貧しい状態を「相対的貧困」と呼びます。日本の7人に1人の子どもがこの相対的貧困で、家族で食卓を囲んでの団らん……といった経験がありません。
これらをふまえ、独自の視点で書きたいテーマに挑んでほしいものです。児童文学だからといって対象年齢を意識する必要はありません。大人や高齢者も読者の1人だからです。
浜尾
イラストACより|島崎藤村
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