第20回 「死」を伝える名作アニメ

「死」を伝える名作アニメ


「死」をテーマに童話を書くにあたって、何となく罪悪感に苛まれることがあります。

しかし、人はなぜ死ぬのか? 死んだらどうなるのか? という好奇心は大人でさえ抱くのですから、子どもが興味を持つのも当然です。こうした疑問に答えることも児童文学の役目です。

むかしの東映映画に『わんぱく王子の大蛇退治』というアニメがありました。「長編まんが映画」と呼ばれていて、どのアニメも子ども向けでした。日本神話を題材にしたもので「死」をテーマにしています。

スサノウ王子はわんぱくな男の子で、母であるイザナミがこの世から旅立ってしまったことが納得いきません。男の子にとって、母の死は衝撃的でしたが、ある夜、スサノウ王子の夢に母が現れました。

「スサノウ、これからは自分の力で強く生きていくのです。お母さまは遠い国でいつも見ていますからね」

「お母さまのいらした国って、どんなところなの?」

「それはね、平和でね、しずかで、美しい、しあわせの国。海のむこうにある、なかなか行けないところです」

夢から覚めたスサノウ王子は、父の元をはなれ、船を作って海を渡り母に会いに行きます。けれど、高天原の姉、アマテラスに会っても黄泉の国への道は教えてはくれませんでした。出雲の国へやってくると、クシナダヒメ(稲穂が実った美しい田の女神)に出逢います。どこか母の面影がありました。

クシナダヒメ親子が泣いている理由をたずねると、八俣の大蛇が毎年、暴れまわるので一人ずつ娘を生け贄に捧げなければならないということです。

そこでスサノウ王子は、酒樽を用意させて、大蛇たちに飲ませることにしました。

天馬(アメノハヤコマ)に乗ったスサノウ王子は、酔った大蛇たちを仕留めることができたのです。死んだ大蛇たちは川や滝に姿を変えました。大蛇とは――自然災害の象徴なので、スサノウ王子が反乱した川を塞き止めた意味にも解釈されるわけです。

緑豊かな大地には、色とりどりの花が咲き、鳥たちが舞いあがると、スサノウ王子は母の言葉を思い出します。しあわせの国はこの大地であることに気づくのでした。

村人やクシナダヒメの命を救ったことで、「命の尊さ」を知ったスサノウ王子は人間として成長することができました。

名作は幾年経ても色あせることがありません。改めて見直すと、深い児童文学に等しい感銘を味わうことができます。一九六三年に制作された本作は後のアニメ界にも多大な影響を与えました。毎日映画コンクール大藤信郎賞。ベニス国際映画祭オゼルラ・デ・ブロンド賞。

浜尾


童話作家|浜尾まさひろ

作成者|随筆春秋事務局 正倉一文

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