第19回 このままでは落選
このままでは落選
私のショートショート集に「のぞみの魚」という短編が収められています。この「のぞみの魚」が童話にならないだろうか……という思いが浮かびました。
「コウモリガサの一番星」「ここに捨ててはダメ!」に続き高田くんを主人公にしたいと思った私は設計書を作成してみます。
● 高田くんが仕事を終えて寛ぐ。
● 高田くんが、喫茶店で落としたコンタクトレンズを探しはじめる。
● 床に這いつくばると、光がふりそそぐ。
● 気がつくと、小舟にゆられて、つり糸をたらしている。
● 一匹の魚をつりあげる。見たこともない真っ白い魚はやさしい目をしている。
● 魚に話しかける。「わたしは『のぞみの魚』。わたしをつりあげた人間だけに『のぞみ』は叶えられます」
● 高田くんが、魚の尾をつまんでゆらすと、手のひらに一枚のウロコが落ちてくる。
● ウロコは、コンタクトレンズの形になっている。
● 左の目にはめてみると、不思議に景色がよく見える。
と、冒頭はこんな感じです。高田くんが喫茶店の中で、小舟が描かれた絵を眺めていたという前提があります。魚のウロコがコンタクトレンズの代わりになるアイデアは悪くありません。小道具も生かしています。
しかし、このままでは落選するでしょう。空が美しく見えたことで『のぞみ』が叶えられるというには弱いのです。
インパクトのある展開が必要です。それには、海の中を描くことが打って付けです。
高田くんが海中の世界を冒険することで読者をグッと引き付け、ストーリーに膨らみが生まれます。深海は大げさにいえば母の胎内(羊水の中)にいるような希望に満ちあふれた場所でもあるからです。のぞみの魚が
1. 何のために深海へ誘うのか?
2. 高田くんの『のぞみ』は何なのか?
3. 魚が真っ白い理由は?
4. なぜ、魚はやさしい目をしているのか?
と、この時点で作者の頭の中に、その理由がイメージとして描かれていなければなりません。作品が出来たときに、思わぬ綻びや矛盾点を抱かせることがあるからです。
まだ未発表なので、後半のあらすじは控えます。高田くんはただ、仕事のミスの穴埋めのために日曜出勤までして、クタクタに疲れていたからこそ一時の眠りの中で幽玄的な出逢いをしたにすぎません。
浜尾
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