第13回 箱の中身は?


箱の中身は?


六十年近く前の小学校の国語の教科書に掲載されていた内容です。


きのうの夕方、二郎くんが肉屋へおつかいに行った帰りに、小さな箱をひろいました。――なんだろう? と思いながら二郎くんは箱をすこしふってみました。すると、箱の中から「そんなにふっちゃダメだよ……」と声がしました。おどろいた二郎くんは、ガタガタとふるえてしまい、その場に立ちつくしてしまいました。


と、こんな文面だったと思います。教科書には、このつづきをみんなで考えてみましょう……とありました。そこで、クラスの生徒たちが各班に分かれて、どのグループが一番面白いかを競い合ったわけです。

当時の私はおとなしくて、創作には縁遠いと思っていた子どもだったので、彼らの話を黙って聞いているだけでした。


――箱がなぜ、道に落ちていたのか?

――箱から聞こえた声の主はだれか?


その謎を解明するべく、いろんな意見が飛びかいました。しかし、どの班も「声の主」は宇宙人だったという結末がほとんどで、私は内心白けてしまいました。なかには、箱がタイムマシンで未来人が入っていた話もあったかもしれません。

現代の子どもならば、ゲームやアニメのキャラクターが箱から飛び出してきそうなものです。が、童話を書く大人は子どもが思いつく発想を超えていなければなりません。

ゲームやアニメのキャラクターはオリジナルではないからです。だれもが思いつく発想ではなく、独創性が求められるのもこのためです。でなければ、読者である子どもたちの目を輝かせることができません。

そもそも、クラスの生徒たちが班に分かれる必要があったのか、私には疑問です。

こういったやり方も学校では重要な指導方法だったのでしょう。ですが、創作は企画書を作る作業ではありません。一人、一人が時間をかけて孤独と向き合うこと――。

今はスマホから、ふいに音声が流れる時代です。箱から声がしても、子どもはさほど驚かないでしょう。コンピュータが身近になったからです。どんなに時代が変わっても、空想や想像力は無限に広げたいものです。

童話コンクールの募集には「これまでにない新鮮な発想を」というコメントがあります。プロでさえ、新鮮な発想に頭を悩ませているはずなのに、それを素人に求めているのが現状です。

逆に考えれば、素人だからこそ、プロには思いつかない突飛な発想ができるのだと居直るしかないのです。

浜尾


童話作家|浜尾まさひろ

作成者|随筆春秋事務局 正倉一文

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